【子供の歯並び予防45】保育園で起こる悲しい事故から何を学ぶか?


【2023年5月29日 12:00 PM更新】

こんにちは

仙台市泉区富谷市ただ歯科クリニックです。

初めての方はブログの簡単な注意事項こちらの記事に目を通してください。

 

今日は最近新聞等で報道された保育園で起こった悲しい事故について考えたものです。

 

もくじ
①リンゴをのどに詰まらせる悲しい事件がありました
②事件があったから「●●しないようにしよう」はよくない
③食べることは発育ではなく発達
④もう一度考えよう離乳食を始めるタイミングは?
⑤月齢を意識すると遅れたときに焦ってしまう。
⑥ご飯を左右に首を振って食べてみましょう。
⑦歯固めで噛む力をつけよう!
⑧簡単な答えより、考えることを大事にしたい

 

①リンゴをのどに詰まらせる悲しい事件がありました

先日愛媛の保育園で8か月の子供が、給食のリンゴを詰まらせるという事故があったようです。

その後鹿児島の保育園でも6か月の子供が、給食のリンゴを詰まらせたという報道もありました。

事故そのものや、保育園でどういったことがおこなわれていたか、といったことより

このことから色々と自分なりに考えたことを今日はまとめてお話をしていきます。

 

出ている情報、出ていない情報、不確定なこともあるので、そういった中であくまでも、考えられる範囲で考えたことを話していきます。

意見の違い見解の相違等はあって構いませんが、不快であれば読んでいただかなくて結構です。

 

事故について知らなかった方はこちらをご覧ください。

2023/5/20 保育園で8カ月男児が給食中、意識不明 離乳食の魚ペーストとリンゴ(朝日新聞)

2023/5/31 保育園でリンゴ食べた後の事故相次ぐ 鹿児島で生後7カ月の女児死亡(朝日新聞)

 

報道で分かっているのは

愛媛では
・8か月の子供
・リンゴは生で7ミリ×3ミリ×2ミリぐらいに切られたものだった
鹿児島では
・6か月の子供
・リンゴはすりおろしだった

ということです。

 

一方でこの子が

・乳歯がどの程度生えているのか?
・いつから離乳食を始めたのか?
・口の機能や身体の発達はどうだったのか?

といったことはわかりません。

 

そういったわかること、わからないことから、この事故の評価ではなく、ここから考えられることで明日からの育児のなかで最適なもの、もう一度確認したほうがいいものを、考えていきたいと思います。

 

②事件があったから「●●しないようにしよう」はよくない

先ほど話したように、わかる情報、わからないことがある中で想像で話していきます。

 

こういった事故があると

「リンゴを子供にあげるのは危ないのではないか」
「1歳過ぎたらすり潰したりんごからはじめるようにしよう」
「離乳の時期はリンゴは危ないからジュースでいいのではないか?」

といった話がネットを中心にありました。

 

 

すぐにこういったことがあると「わかりやすい答え」が欲しくなってしまいます。また保育園などの施設側もトラブルがないように消極的な選択肢をとってしまいがちです。そういったことを期待する保護者も出てくると思います。

 

ただそういったことは事故の本質を分かりにくくし、最適な選択肢、この時期の子供の「食べること」「口の機能の発達」の問題を遠ざけてしまうことにもなります。本来やらなければいけないことを、遅らせてしまえばそのしわ寄せは3年後6年後に大きな差となって出てきます。やがてそれは永久歯が生えてくると歯並びといった問題だったり、小学校に入学すれば給食といったことで出てくるものです。

 

③食べることは発育ではなく発達

子供の成長は発育と発達に分けられます。

発育は年齢によって上がっていくもの

身長なんかそうですが、子供が去年より身長が小さくなったはなく、大きい子、小さい子はいますが、みんな増えていきます。歯の生え変わりなんかもそうですね。永久歯が10歳くらいで全部そろう子もいますが、中学生になってもまだ乳歯が抜けない子供もいます。でも先天欠損の様な永久歯がない場合を除けばいつか必ず永久歯に生え変わります。

 

発達は機能を上げていくことです。機能を上げるというのは練習訓練をして上がります。食べることも離乳食からトライ&エラーを繰り返していろいろなものが食べれるようになります。絵を描く字を書く、発音、言葉を覚える、トイレを覚える、服を着る脱ぐ、こういったことも発達です。昨日できたから今日できるではなく、何回も繰り返してできるようになっていくものです。

 

 

よく子育てで何かできないときに

「そのうちできるようになる」とか「まだ●歳だから」と放置してしまうお母さんがいますが

発達に関することであれば「そのうち」ではなく練習しなければできるようになりません。ただ現実は何か覚えるときにそこだけじゃない全身の体の発達が練習になっていることもあるので結果として「そのうちできてしまった」ということもあります。

とにかく今やっていることが発育か発達かを分けるのはとても大事です。

 

そして「食べる」ことは発達です。そのうちできるようになるものではありません。

 

 

④もう一度考えよう離乳食を始めるタイミングは?

離乳食をどのタイミングで始めますか?

当院の母親教室で質問するとほとんどのお母さんは

・乳歯が生えたから
・本に月齢●か月と書いてあったから

と答えます。

 

残念ながらこれは間違いです。

 

まず離乳食を開始する時期

子供は歯では噛んでいません。

 

だから歯が生えてきたから離乳食を始めるというのは判断基準になりません。お母さんは歯が生えたと思ってても、丸呑みしているだけということです。そう言った子供に離乳食を与えれば、丸呑みするのでむせたり、詰まったりします。丸呑みしているから、食形態を小さく、液体に近くしていけば安全ではありますが、それではいつまでたっても噛めるようにはなりません。

 

 

ではこのころはどこで噛んでいるのかというと

乳歯が生えてないところで噛んでいます。

 

実際は歯茎とベロで噛んでいるんですね。

だから最初はすり潰してあげないとダメなんですね。

もしくは固形なら火を通したりして食べれる柔らかさにするわけです。

 

この動きで大事なのは哺乳の動き、おっぱいを吸う動きは

「舌が前に動く」前後運動です。

歯茎と舌で噛む。つまり横に動かしていくのはそれをやめる動きでもあります。

なんでこの動きを覚えるのでしょうか?

 

哺乳ができなくなる動きを覚える。つまり

卒乳・断乳が進むかどうか?

も関連しているということになります。

 

1歳までジュースでいいすりおろしでいい

は詰まったりする事故は無くなりますが、舌が横に動いていかないので卒乳・断乳も進みません。

 

卒乳・断乳がスパッとできる子供、ダラダラ続く子供がいると思いますが、そもそも吸う動きができなくなればやめますし、それができるならいつまでもします。あとはお母さんが頑張ってそういう機会をなくしたり、3歳くらいなってさすがに周りがしてないからと本人がストレスを感じながらやめていくようにするだけです。

 

卒乳・断乳ができたら舌の前後運動がなくなるわけでもないので、小学生でも前後に動かす子は動かしますし、大人でも動かす人は動かします。

そのような口周りの機能の低下は、歯並びもそれに影響を受けてきます。

 

例えば舌が前に出てくることで前歯が噛まなくなるといったことが起こります。先天的にこの子が悪い舌の動かし方をする子だった・・・のではなく、全員こういった動かし方をしていて離乳食から食べるのを覚えるとしなくなるのに、この子だけ発達が遅れているだけです。

 

話を戻しますが「歯がはえた」は離乳食の開始時期や進行にあまり意味がないと思っています。当院の母親教室でもそういったことを説明してそれ以外の離乳の進め方の基準をお話ししています。

だから今回の事故でも、何歳だから歯が生えているとか、生えていないとか、奥歯が生えてないんだから噛めないといった話は間違いになります。

 

⑤月齢を意識すると遅れたときに焦ってしまう。

今回の事故でも愛媛では8か月、鹿児島では6か月というのが強調されていました。

ただしこの時期の「月齢」というのも子供たちはばらつきがかなりあります。

知らなくていいわけではないですが、クリアしないといけないものでもないです。

 

例えば8か月の子供で考えると

もう前歯の乳歯8本が生えている子供もいれば、

まだほとんど生えてない子供もいます。

 

先ほど話したような「歯があるから噛める」という考えだと

8か月で歯が生えているからどんどん離乳を進めよう

となったり

8か月でこういったことをするように本で書いてあるけれど、

「歯がまだ生えていないから離乳食をはじめてはいけないのではないか」と

待ってしまったりします。

 

こういったとき、先に進めるときはいいのですが、遅れているとお母さんはストレスを感じたりするようです。

そのまま離乳食が進んでいくと、まだ噛めてないのに食形態だけがどんどん上がり、子供は丸呑みをして噛まないで飲み込むか?いつまでも口の中に食べ物がありもぐもぐしています。そしてそういった状況は詰まりやすい状況になりますがこのころには反射として吐き出すことができるようになっているので詰まる事故は少なくなります。正しい嘔吐しやすいようになるので、歯ブラシしていても「おぇ」となったり、ちょっと体調が悪いと吐いたりするようになります。

 

「月齢」「歯が生えてるかどうか」みたいな発育だけで食べることを覚えようとすると、こういった1回遅れたりしたときに追いつくのが難しくなります。

 

⑥ご飯を左右に首を振って食べてみましょう

では何を基準に離乳食を勧めたらいいのでしょうか。

左右の首を振りながら最初から最後まで食べてみてください。

このほうが噛みやすくなったという人はいないと思います。

三半気管が弱い人は気持ち悪くなるかもしれません。

 

首が座ってない赤ちゃんに離乳食食べさせてもそんな感じです。

噛めるわけがない、つまり舌と歯茎で噛むのではなく丸呑みで精一杯です。

 

離乳食を始めるタイミングの一つは首の安定が大事になります。

自分で座れる。できたらここからズリバイやハイハイができる。そう言った首や体幹が安定したら離乳食を食べれるようになります。ズリバイを自分でやってみるとわかりますが、首を使います。ハイハイも前にぶつからないように首を上げるとかなり大変です。そうやって首周りの筋肉が安定したら噛む力もついてきます。食形態を上げていきます。

早く歩かせたいと歩行器を使ったり、つかまり立ちをしたのを「立った」と喜んでしまいがちですが、歩かせても首周りの筋肉は安定しません。不安定な子供は立った時に前ではなく後ろに倒れます。後ろに倒れるから転倒頭を打たないように器具をつけないといけません。

首の安定を見ないで進めていくと、月齢で食形態を変えていってもうまくいきませんし、食べていても丸呑みです。

頭が安定しないない子供は歩いても後ろに転んだりして危ないし、長い時間歩けないので、3~4歳になってもすぐに「だっこー」といいます。

 

 

今回の報道では、愛媛の件にしろ鹿児島の件にしろ、そういった体の発達については触れていません。お座りできたのか、ズリバイやハイハイはどうだったのか?それらのことができていない、遅れていたのであれば、そちらをできるように家庭や園で何らかのアプローチをしていれば事故は防げたのかもしれません。

 

月齢や歯の数よりも、全身の発達や子供の機能を見る視点が大事だと思います。

 

⑦歯固めで噛む力をつけよう!

また歯固めをして噛む力をつけるのも大事なことです。

他にもいろいろなものを口入れると思いますがそういったこともさせたほうがいいですね。

「汚いから」「危ないから」

とあまりさせないと噛む力がついてきません。

気になる人は歯固め用のものを出かけるときも持ち歩いていつもアムアム噛ませるのも大事になります。

 

 

実際モンゴルとかでは3~4か月で、馬のゆでたしっぽ。飲み込めないような大きな尻尾の塊を上げて子供に一日中あむまうしゃぶらせているそうです。

 

今回の事件のリンゴで言うと、飲み込めない半分くらいの大きさにして、種は取って本人にアムアムさせていてもいいんでしょうね。同様に飲み込めないような塊のニンジンや、切らないで長いままのごぼう、白菜の大きな葉っぱのしろいところ。さっと殺菌もかねてゆでて、あとは本人にしゃぶらせていてもいいと思います。

 

 

飲み込んでしまうから小さく小さくではなく、飲み込めない大きさにしてしゃぶらすです。

 

どうしても飲み込んで危ないから1歳過ぎまですり潰したものでいいというののなら、こういった大きいものを与えてしゃぶらすというのを意図的に増やさないと1歳になっても噛めないですし、ただただ離乳の進行を遅らせているだけです。ハイハイとかも意図的に増やして毎日遊ばせないとダメでしょうね。

その遅れは取り戻せないので3歳になっても外食では苦戦するでしょうし、小学校に入ったら給食でも周りから遅れていくようになると思います。

 

⑧簡単な答えより、考えることを大事にしたい

今回の2か所であった事故の詳細は分かりません。保育園に問題があったのか?そういったことを議論してもしょうがないですし、出てきた情報だけから簡単に判断したことで見つけた答えが必ずしも子供たちの発育にとっていいとも限りません。

 

詰まらないように

「ジュースでいい」「1歳まではすりおろしでいい」

といったのは事故防止のためによさそうですが、子供の「食べる」ことの発育を全く無視してしまったものです。

「解剖的な子供の気道の大きさはこのくらいだからそれに合わせて食べ物を切ればつまらない」なんて意見もありました。それこそ平均的な値であってその子の気道の大きさが本当にそうなっているかはわかりませんし、ミリ単位でいちいち切るお母さんが大変すぎます。

 

ぼく個人の今回の事故の中で思ったのが、離乳食を始める、進める中でのお母さんや保育者がわかりやすく、確実な基準というのがないんだろうなということです。そう言った意味では月齢や歯の生え方はわかりやすいものなのですが、確実ではないようです。むしろトラブルになりやすいといった側面もあります。

今日話した

・哺乳からの準備

・首をはじめとした体幹の発達、全身の発達

・歯固めを使った練習

といったことも母親教室ではもう個人に合わせた実践的なことを少し深いところまで話しますが、こういったことが家庭で保育園でどこまでアプローチできるかも難しかったりすることもあります。

 

ただ「危ないから●●させない」というのは

転ぶから歩かせないみたいなもので歩かせてなくても

ある年齢になったら突然速く走れる

なんてことはないわけです。

 

子育ての中では「母親のセンシティビティー」というのが発達学では大事といわれています。

センシティビティーというのは感受性ということですが

子供の何かすることの中で、細かい変化を見る能力みたいなものになります。

今日も話したような

ミルクを飲んだ・飲まないだけを見ているのか

どうやって飲んだのか、スピードは?量は?いつもと比べて違いがなかったか?

食べるときでも同じように

食べ終わりだけを見るのではなく

スピードや量、残したものは何か?最近残しているものの傾向はあるのか?(味なのか硬さとかの形なのか?)一品ずつ食べているのか?複数の食材を一気に食べているのか?

こういった食べるときじゃなくても子供の何かする時にどれだけたくさんのことをチェックできて問題点を見つけて整理できるのかが大事になります。

 

もしくはそういったものがあまり期待できない場合、保育者のセンシティビティーが高くない場合は、細かい変化を見れないのでそれこそ「させない」子育てのほうがもしかしたら問題は少ないのかもしれません。いろいろな発達は遅れていきますが。

 

離乳食を始めていく中でそういった子供の変化、喜びや拒否、できたりできなかったり、といったことを測る数値という絶対的なものがない以上多角的に様々な角度からアプローチすることが大事ではないのかなと考えています。よく子育てで「愛情」という言葉が使われますが、これがまた難しくしてしまったりお母さんを悩ませてしまったりするものです。

 

食べる能力がない子供に愛情をいくら注いでも噛まないですし、丸呑みをしたら詰まってしまいます。

その時に助けになるような知識やきっかけの発信をこのブログだったり、最近はそっちがメインですがインスタグラムのほうで発信できたらなと思っています。

 

今回の愛媛の件にしろ鹿児島の事件にしろ、事故にあった本人や家族、保育園の管理について僕からどうといったことはありません。また保育園などのこういった年齢の子供にかかわる仕事の方は、今回の件で対策は必要になるでしょうし、大変だと思います。またそういった保育に関わる人を苦しめるとか上からどうこう言う気もありません。

ただネット等にあふれる簡単な答えに対しては今日話したような「ちょっとそれは違うのでは?」といった思いがあります。これも一つの考え方ですので、これを読まれた方それぞれでまた考えてもらえたらうれしいです。

 


2023/6/20追記

普段から外来で偏食の相談や障害児の食事指導にあたる昭和大学歯学部口腔衛生学講座教授の弘中祥司先生がこういった乳幼児の窒息の事故を受けて取材を受けています。参考にしてください。

乳幼児の食物の窒息事故を防ぐには「5つの注意」を 弘中祥司さん

 

こういった窒息事故に対して

(1)経験したことのない食べ物、(2)食べ物の調理法と口の機能がマッチしていない、(3)観察者がいない、(4)救命方法が思い浮かばない――あとは小学生の学齢期ですが、(5)本人のキャラクターという5つの要素から話をされています。参考にしてください。


20023/6/29追記

新居浜 給食りんご男児重体事故 県が保育園に改善を通知(NHK)

愛媛の保育園には改善の通知が出たようです。ただし、ガイドラインの「離乳食が完了するまではリンゴは過熱して出す」というところの改善のみのようです。

 


ただ歯科クリニックでは口元からの正しい機能の発達と発育、虫歯予防等を中心とした0~3歳までの母親教室をしています。0~1歳半コースは5/24、7/26、9/20、11/22、1歳半から3歳コースは6/21、8/23、10/25、12/6を予定しています。どちらのコースも12:30~で45分くらいを予定しています。受け付けはメール相談のところからのみで、電話等での質問や予約などは受け付けておりません。

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